
けたたましいサイレンの音――。
続けて、緊迫した場内アナウンスが流れる。
「ただいま火災が発生しました。直ちに避難を開始してください」
もしも、コンサート中に災害が発生したら、あなたはどうしますか?
災害時にどのような行動をとるべきか、日頃から意識しておくことで、いざというときに備えることができます。
日本全国のコンサートホールでは、地元の消防署などと連携し、「公演の最中に実際に災害が起こったら」という設定で、避難訓練込みの「避難訓練コンサート」が行われています。
2025年2月24日(月祝)に、なみきスクエア(福岡市東区)のなみきホールで「避難訓練コンサート」が行われましたので、その様子をお伝えします。

「避難訓練コンサート」は、演奏の最中に災害が発生したと想定し、観客も実際に避難を行うという、体験型のコンサートです。避難訓練終了後は、再び席に戻り、コンサートの続きを楽しむことができます。
公演の冒頭で「演奏の途中で非常放送が入ります。職員の誘導に従って避難訓練に参加してください」という呼びかけがありますが、どのタイミングで非常放送が入るかは伝えられていません。途中で避難訓練が入ることはわかっていても、それがいつやってくるかわからないという点では災害の臨場感があります。
いつやってくるかわからない災害に備えながら、コンサートがスタート。演奏は、福岡市消防音楽隊のみなさんです。公演そのものは、老若男女が楽しめる吹奏楽コンサートです。プログラムが順調に進行していくなか、そのときがやってきます。
ウー!ウー!…けたたましいサイレンの音。そして非常放送。
「火災が発生しました。直ちに避難を開始してください。避難先はスタッフが誘導します」
この放送を合図に、観客が一斉に席を立ち、避難を開始。
このホールは出入り口が4か所あるのですが、そのうちの1か所が警備員により封鎖されています。
おそらく、その扉の向こうが火の発生源に近く、通行できないという想定でしょう。
残された3つの出口に向かって人が集まっていきます。
避難訓練ということで、観客みんな落ち着いて行動しています。
しかし、実際に火災が起こっていたら、パニック状態になっていてもおかしくありません。
本当なら、非常ベルが鳴り響き、煙で視界が奪われ、出口の位置がわからなくなるかもしれません。炎が舞い上がっていれば熱を感じます。煙が建物内に充満していれば、姿勢を低くして、なるべく煙を吸わないように急いで避難しなければなりません。
訓練では、スタッフの方がところどころに立っていて、「こちらに避難してください」と呼びかけてくれていたので、避難はとてもスムーズでした。
今回の避難場所は、なみきスクエアの隣にある「千早並木広場」です。観客全員が避難できたところで、避難訓練は終了。自分が座っていた席に戻って、コンサートの続きを楽しむことになります。

初めての会場で、建物の構造や避難経路がわかっていなかったとしても、避難そのものはそんなに難しいことはなく、スタッフの誘導に従って行動するだけ。観客からするとあっけなさも感じますが、この避難訓練コンサートは施設側の実地検証という意味合いもあります。危機管理マニュアルに沿って策定された避難計画も、実際に数百人以上が一斉に動くと、意図しないところで不具合が出ることがあります。この実地検証によって、ガイドラインやマニュアルをさらに充実させて、来たるべき災害への大きな備えとするという狙いがあります。
避難訓練終了後には、消防署職員の方から講評がありました。
実際に火災が起きたら、「迅速・冷静」に落ち着いて行動するのがポイント。そのためには、「避難口はどこにあるか」「避難経路はどのようになっているか」と、日頃から考えておくことが大切とのことでした。
福岡市では、令和6年の1年間で279件の火災が発生。そのうち8名が亡くなっています。令和7年は、1月1日から2月17日までで51件の火災が発生し、4名が亡くなっています。わずか1か月半で、前年のおよそ5分の1に相当する火災が発生しているとのことで、よりいっそう火の用心が必要です。
日本は自然災害が多く起こる国です。2025年は、阪神・淡路大震災から30年の節目の年。福岡市にとっては、2005年3月20日に発生した「福岡県西方沖地震」から20年を迎えます。
今一度、防災について考え、いざというときの備えにしておきたいものです。
◇ ◇ ◇
さて、ここからはコンサートの内容をレポートします。
この演奏会は写真や動画の撮影がOKということで、一部写真を交えてお伝えします。

今回の演奏は、福岡市消防音楽隊のみなさん。編成は、フルート1、オーボエ1、クラリネット4、サックス3(アルト2、テナー1)、トランペット5、ホルン3、トロンボーン2、ユーフォニアム3、テューバ2、パーカッション4、カラーガード5、司会進行の隊員1名に音楽隊隊長という35名体制です。
プログラムは次のとおりです。
1部
- FIRE FIGHTER〜め組の大吾より
- 東京ブギウギ
- 楽器紹介のためのファンタジーメドレー(編曲:郷間幹男)
2部
- ラッパ隊の演奏
- ドレミの歌(編曲:星出尚志)
- J-BEST〜日本を勇気づける名曲たち(編曲:宮川成治)
- スーパーマリオブラザーズ
- 糸(作曲:中島みゆき)
- 宝島(編曲:真島俊夫)
アンコール
- マツケンサンバⅡ
1部
1曲目は、消防士が主人公の漫画を原作とするフジテレビ系ドラマ「FIRE BOYS〜め組の大吾〜」のテーマ曲「FIRE FIGHTER」。曲のなかでサイレンが鳴るアレンジが入っているのですが、このサイレンはかつて福岡市を走っていた消防車で実際に使われていた手回し式サイレンとのこと(つまり本物のサイレン!)。今は楽器として使っているそうです。曲中では、カラーガードによる、炎と水をイメージしたフラッグの演技もありました。
2曲目は、終戦から復興に向かう日本を象徴する流行歌として知られる「東京ブギウギ」。およそ80年前の1947年の曲ではありますが、近年ではNHKの連続テレビ小説「ブギウギ」でも注目され、ビールメーカーのテレビコマーシャルでもよく耳にします。
この曲中では、カラーガード隊が踊りながら、よくある火災の原因を教えてくれました。それによると、「コンロ」「タバコ」「電気」が多いそうです。

特に、最近増えているのが「電気」だそうです。スマートフォンやモバイルバッテリー、充電式の携帯扇風機による火災が多いようです。これらの製品を使う際は、「本体に衝撃を与えないこと」「高温の場所で放置しないこと」「膨らんだり熱くなっていたりなど異常を感じたら使用しないこと」が注意として挙げられていました。
3曲目は、「楽器紹介のためのファンタジーメドレー」。有名なディズニー音楽のメドレーとなっており、曲ごとに各楽器が活躍する場面があるので、楽器紹介として使われます。
曲は、「星に願いを」(ピノキオ)から始まり、「リメンバー・ミー」(リメンバー・ミー)〜「ハイ・ホー」(白雪姫)〜「ジッパ・ディー・ドゥー・ダー」(南部の唄)〜「ビビディ・バビディ・ブー」(シンデレラ)〜「パート・オブ・ユア・ワールド」(リトル・マーメイド)〜「ホール・ニュー・ワールド」(アラジン)〜「アンダー・ザ・シー」(リトル・マーメイド)〜「美女と野獣」(美女と野獣)〜「愛を感じて」(ライオン・キング)のメドレー。
これらの曲に乗せて、打楽器〜テューバ〜フルート〜クラリネット〜サックス〜オーボエ〜トロンボーン〜トランペット〜ホルン〜ユーフォニアムの順で活躍する場面があります。

コンサート開始からおよそ20分。ここでサイレンが鳴り、避難訓練へと移っていきます(詳しくはこの記事の冒頭へ)。避難訓練終了後はそのまま15分間の休憩です。
2部
休憩明けに消防署職員の方から避難訓練の講評。
防災意識を高めたところで、あとは残りのコンサートを楽しむだけです。
2部のはじめは、福岡市消防局ラッパ隊による演奏です。
どうやら、音楽隊とは別部隊のようで、今回は10名の隊員が参加していました。吹奏楽を嗜む人はトランペットのことを“ラッパ”と呼ぶことがありますが、ここでいう“ラッパ”はトランペットとは別物。
「トランペット」はピストンの動きによって音程を変える楽器ですが、「ラッパ」は息だけで音程を変える楽器です(特定の世代では某胃腸薬のマークでお馴染みです)。

管楽器特有の高音で遠くまで鳴り響く性質をもつことから、古来より連絡手段として使われていましたが、無線通信が発達した現代では、主に消防出初式などで披露されます。
「気をつけ」「休め」「放水」「放水やめ」など何曲かの演奏がありましたが、それぞれの曲はどれも数秒しかないので、曲というよりもファンファーレといった感じ。

ラッパ隊のあとは、再び音楽隊が登場します。1曲目は、ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」より「ドレミの歌」。星出尚志さん編曲によるニュー・サウンズ・イン・ブラスシリーズ。簡単な振り付けもあって、客席も一緒に盛り上がります。
2曲目は、「J-BEST〜日本を勇気づける名曲たち」。宮川成治さん編曲による、吹奏楽コンサートの定番曲です。「世界に一つだけの花」(SMAP)〜「どんなときも。」(槇原敬之)〜「明日があるさ」(坂本九)〜「愛は勝つ」(KAN)〜「負けないで」(ZARD)〜「全力少年」(スキマスイッチ)〜「ら・ら・ら」(大黒摩季)〜「それが大事」(大事MANブラザーズバンド)〜「栄光の架け橋」(ゆず)〜最後に再び「世界に一つだけの花」(SMAP)のメドレーになっています。
3曲目は、ゲーム音楽「スーパマリオブラザーズ」のメドレー。この曲では、スーパーマリオの音楽に乗せて、救急車に関するクイズが出題されました。

第1問「福岡市の救急車の1日の出動数は?」選択肢「①53回 ②110回 ③270回」

↓↓↓
正解は、③270回。福岡市だけで1日に270回も出動しているという驚きの数字。

第2問「福岡市にある救急車は何台?」選択肢「①34台 ②50台 ③119台」

↓↓↓
正解は、①34台。

たったの34台で270回も出動していることになります。1台が1日に約8回も出動している計算に。これにはお客さんたちからも驚きの声が漏れていました。この数字を見ると、救急車を呼ぶのは本当に必要としている場合に限ったほうがいいと思い知らされます(一部報道ではタクシー代わりに救急車を呼ぶ事例もあったりなかったり…)。
救急車を呼ぶべきかどうか迷ったら、「#7119」へ電話すると、24時間体制で看護師が応対し、救急車を呼ぶべき状態なのかを判断してくれたり、最寄りの病院を紹介したりしてくれるそうです。
緊急時はすぐさま「119」へ連絡すべきですが、迷ったときは「#7119」へ!

場面変わって4曲目は、中島みゆきの名曲「糸」でしっとりとした雰囲気に。テレビドラマやコマーシャル、イベントなどで多く使用され、数多くのアーティストがカヴァーしていることでも有名です。
最後の曲は、「宝島」。もともとはインストゥルメンタルバンド「T-SQUARE」の曲ですが、真島俊夫さんによる吹奏楽アレンジは、吹奏楽をやる人なら誰もが知る名曲です。テナーサックスやアルトサックスのソロをはじめとして、各パートが活躍する場面もあり、ノリノリで会場は大盛りあがり。コンサートのラストを飾るのにふさわしい楽曲です。

「宝島」はアンコールで演奏されることも多いので、ここで終わっても十分に満足のいくプログラムでしたが、ここでお客さんたちからアンコールが。
アンコールとして用意されていたのは松平健の「マツケンサンバⅡ」。ノリノリの演奏もさることながら、目潰しライトを使った照明演出や、カラーガード隊によるダンスなどで最後の最後は華やかに盛り上がってフィニッシュです。

以上、2部からアンコールまで約45分のステージ。
演奏会全体では約1時間30分のプログラムでした。
福岡市消防音楽隊のみなさん、楽しくかつ学びのある演奏会をありがとうございました。
(参考文献)
- 公益社団法人全国公立文化施設協会
- 福岡市消防局
- ウインズスコア
- ブレーンミュージック
